「ちいさな哲学者たち」を観る

「ちいさな哲学者たち」(2010年)監督:ジャン=ピエール・ポッジ、ピエール・バルジエ

フランスのドキュメンタリー作品。幼稚園で4~5歳児を対象に行われた哲学授業が記録される。教師たちのチーム、そして家庭の親たちも巻き込んで子どもたちが哲学に取り組み、「死」、「愛」、「自由」、「差異」といった抽象的な概念を「考える」ようになっていくプロセスを観ると、「子ども」の可能性がどのように引き出されるかを思わされる。

フランスでは幼稚園教諭は修士学位が必要である。映画冒頭で教育相の「修士資格がただ子守りをするだけの職員に必要か」という発言が紹介される。子どもを育てるという社会の根幹事業は日本だけでなくかの国においても誰でもできる子守として低く見られている。

哲学の授業は教師の問いかけによる問答で進んでいく。先生は子どもの発言を否定しないが、テーマに沿って、なぜ?質問とどう関係がある?と問いかけ、わき道にそれるのを軌道修正しつつテーマを掘り下げるように導く。


頭の中を働かせることをなんと言う?
考えたことは目に見えるかしら?
考えたことをほかの人に知らせるにはどうする?
 ――口から出す。話すんだよ。言葉を出して話すんだ。

きょうは哲学をします。哲学をするってどういうこと?


では質問よ、リーダーって何? 幼稚園の中にリーダーはいる?


哲学授業に取り組む教諭たちは語る。
“最初に哲学をやると決めたとき、考える訓練になると話を。-それを超えたかった。

友達とは?
友達と恋人の“好き”は同じ?

下校時親の迎えの場面では、子どもたちは子ども「たち」ではなくひとりひとりの子どもとして大切に預かられていることが見える。ひとりずつ親を確認して子どもを引き渡す。「ヤニス、お迎えよ」「ジョナタン!」「イネスのお迎えですよね? ――イネス!」

頭がいいってどういうこと?
どうして?
質問とどう関係があるか説明してみて。


恐怖とは?


死とは何かしら?


テーマは変わる。わたしたちを取り巻く世界について考えるの。
今日のテーマは愛よ。愛って?

 ――恋人は男の子じゃなきゃ。法則さ。
法則って?
 ――交通法みたいなもの。愛の法則。
 ――恋人二人は同じ意見じゃないとダメなの。恋人たちはごめんなさいを言えないとダメ。謝れないと愛はおしまい。


死とは
 ――ぼくたちは自殺しちゃいけないんだ
 ――死んだ人は息をしてない、動かない。
 ――死ぬと神様のいる天国に行く。皮膚じゃなくて魂がいくんだ。
ママが死んだらみんなは何を?
 ――ママが死んだら自殺を
どう?
 ――彼のパパがさびしくなる。あなたのことが恋しくなるわ。
 ――ヤニスには反対。ママもヤニスも死んだらもう学べなくなる。過ぎていく人生。
 ――ヤニスには反対。ママが死んだらパパと一緒にいてあげなきゃ。ママは心の中に残るからいつでも思い出せる。


違いとは?


 ――知りたいわ。なぜ貧しい人たちは貧しいの?
いい質問ね


少年が意見の対立した女子を叩く。教師は少年を教室に残して目線を合わせ、懇々と説く。
ヤニス来なさい。彼女を叩いて解決になるの?どう?
 ――わかんない
ほかの子を叩く以外に問題を解決する方法は?ないの?どう?わたしを見て。答えられるでしょ。叩けば解決するの?“はい”なの?“いいえ”?ではどう解決を?考えて。叩く前に何を?ここで一緒に何を学んでいるの?哲学で意見が合わなかったら相手をたたくの?何をするの?
 ――なにも。
話すんでしょ。話し合わない?ほんとうのことを言って、哲学の授業ではどうしてる?
 ――わかんない。
ヤニス。言葉で話し合うんでしょ。人と意見が違うこともある。だからって叩くのは解決にならない。まず話すの。
 ――うなずく。
行って。

教師たちはこのプログラムの継続を訴える。”優先教育地区(ZEP)の中で2つの幼稚園においてこのプログラムが行われてきた。ここの子どもたちに必要と考えられたからよ。中止されれば教育面でも経済面でも子どもたちにとって損失になる。彼らの環境を第一に考えて。”

自由とは。
わたしは自由かしら?
 ――そう。生徒に質問するから自由。

お腹に子どもがいると違う?何が自由の邪魔に?
 ――お腹の子ども
子どもに決定権が?
 ――違う、決めるのは先生よ。
答えて、イネス。
 ――ニンシン?妊娠してるの?
 ――男の子。
わかるの?
 ――双子だ。すごい、男がいい。
 ――子どもたち大興奮。
(唇に指をたて)静かに、口を閉じて。集中しましょう。いまの意見を掘り下げて。“大人は自由”これに反対の人もいたわね。先生は自由?パパやママは自由で何でもできるかしら?
キリアが最後よ。自由とは?
 ――自由とはちょっとひとりになれること。息抜きができて優しくなれること。
 ――外にひとりで行くこと。


いつも考えてるわけじゃない。考えるのは好き?
 ――いいえ。
どうして?
 ――だって長くかかるから。
 ――好きよ。だって、あとで何かするときに役に立つ。
ほかの人もきかせて。
 ――わたしは考えるのが大大大好き。夢を見るのと考えるのは同じだから。そして夢を見るのはすてきだから。
 ――ぼくは嫌い。無理強いされるから。
誰が無理強いを?
 ――先生。
どう無理強いを?
 ――いつも哲学する。
無理に?
 ――女の子たちが無理強いする。“考えて!”
答えを強制されるのがいやなの?
 ――ぼくのからだの中にいるみたいに指図しないでよ。男の子は“考えなくていい”と言うぞ。女にはうんざりだよ。
 ――幼稚園を卒業して小学校に入ったら哲学の授業がなくなってみんな考えられなくなる。この幼稚園を卒業したら、
 ――なくなる!
 ――来年はここにはいないけど僕は哲学やりたい。哲学やりたいのは、考えるのが好きだから。

 ――お砂場でアビとヌディクーとわたしと、ルイーズとレアと話をした。最初は3人で話してた。死と愛について話をしたの。






[PR]
by e3eiei | 2018-03-29 10:54 | 見聞 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://e3eiei.exblog.jp/tb/26616552
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
<< 野中広務・辛 淑玉『差別と日本... 『1984年』を読む >>