「裸の島」をみて以来の新藤兼人、殿山泰司、乙羽信子になんだかはまってしまい、その流れで、新藤兼人の『愛妻記』を一気に読む。
女優乙羽信子が70歳で亡くなる前の1年間、82歳の夫新藤兼人が監督として杉村春子・乙羽信子の「午後の遺言状」を撮る、その記録であり、乙羽と新藤の馴れ初めからの、愛情と職業人としての記録でもある。 癌の手術後、抗がん剤治療を受けながら亡くなる3か月前までカメラの前に立って映画を完成させた女優もすさまじいが、その妻の体調を気遣いながら、なんとか完成させたいと願う二人のプロの映画人の気迫がひしひしと伝わってくる。とても82歳と70歳の夫婦の物語とは思えない力ときめ細やかなみずみずしい愛情ががあふれている。乙羽の明るさと新藤の抑制のきいた表現が、めそめそじめじめしない作品の読後感を生む。 新藤はこの映画に高齢者だからという規範的思い込みを排するようなメッセージを込めたといっているが、この本そのものが、まさに、人を年齢や属性で決めつけることは誤りだということを伝えている。 この本といい、殿山泰司の伝記(『三文役者の死―正伝殿山泰司 』)といい、いい本だった。
by e3eiei
| 2012-12-26 18:01
| 見聞
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