「おくりびと」(滝田洋二郎監督・2008年)を、ようやく観てみようかという気になって、みる。
評判どおりのいい作品だった。全体を貫く端正なたたずまいがよかった。これは本木雅弘の演技に負うところが大きいのだろう、と途中まで思っていた。だが、この作品は、きっと、徹頭徹尾山崎努の存在に負っているのだ。この人の品格のようなものが作品を引き締めているように思う。山崎の品格は、肉感的な生のあり様をコントロールしていることが暗示され、それゆえに圧倒的な存在感で迫ってくる。たとえば食べる場面が何度か出てくる。フグの白子を焼いて、うまそうにちゅーちゅーする、フライドチキンにむしゃぶりつく、そして「うまいんだ、困ったことに」とうれしそうにつぶやく。こうした生々しさを湛えつつ、遺族と死の仲立ちをするのだ。 考えてみると、納棺師という仕事は、遺体を自らの手によって拭っていくという身体の技によって、死を一つの形に整え生と分かつという意味を持つ。死と生の混沌を死の別れの形に整えていくのが、納棺師の技なのだろう。死別のbodyを構成するヒトの生とか欲とか孤独とか、そういうひどく生々しいものを山崎はよく出していたと思う。本木はその辺がきれいごとになってしまって弱いかなと思ったが、二人のコントラストが出ていてよかったかもしれない。広末がもう少し生き生きしているとまた違う印象になっただろうに。結局連れ合いのことをよくわかろうとしてない妻を演じてしまった気がする。 本木が線が細いと感じたのは、納棺の儀の所作があたかも舞を舞うように様式化されていたことにもある。あれはちょっと残念だった。
by e3eiei
| 2012-09-23 00:34
| 見聞
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